大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(ワ)22273号 判決 1998年1月27日

原告

三井海上火災保険株式会社

被告

西田聡

主文

一  被告は、原告に対し、金四三一万七九五二円及び、内金三五四万九五〇二円に対する平成七年三月一八日から、内金七六万八四五〇円に対する平成六年九月二七日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余は、被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告西田聡(以下「被告西田」という。)は、原告に対し、金八六三万五九〇五円及び、内金七〇九万九〇〇五円に対する平成七年三月一八日から、内金一五三万六九〇〇円に対する平成六年九月二七日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

二  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、交差点における直進車両と右折車両の事故により損害を受けた被害者らに対し、損害賠償金を支払った一方の車両の任意保険会社である原告が、他方の車両の運転者に対し、商法六六二条に基づき、求償金を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実」等という。)

1  本件交通事故の発生

事故の日時 平成六年七月一二日午前三時三〇分ころ

事故の場所 東京都品川区西五反田二―三二―七先交差点(通称大崎郵便局前交差点。以下「本件交差点」という。)

関係車両1 普通乗用自動車(品川三四ち八九九五。以下「西田車両」という。)

右運転者 被告西田

右同乗者 助手席 訴外加藤マリア(以下「加藤」という。)

関係車両2 普通乗用自動車(練馬五三つ五五八三。以下「篠原車両」という。)

右運転者 訴外篠原佳子(以下「篠原」という。)

事故の態様 本件交差点を右折しようとした篠原車両と、対向直進してきた西田車両が衝突した。事故の詳細については、当事者間に争いがある。

2  本件保険契約の締結

原告は、篠原との間で、本件事故に先立ち、篠原車両を被保険自動車、対人賠償保険金額を無制限、対物賠償保険金額を一〇〇〇万円、車両保険金額を一三〇万円、保険期間を平成五年九月一日から一年間とする内容の自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した(甲四)。

三  本件の争点

本件の争点は、本件事故の態様(被告らの責任)と原告の損害額である。

1  本件事故の態様

(一) 原告の主張

本件事故は、被告西田が対面信号機の赤色表示を無視して本件交差点に進入したため、発生したものであるから、被告西田は、民法七〇九条に基づき、被害者らに生じた損害を賠償すべき責任があり、篠原に過失はない。

(二) 被告西田の認否及び反論

被告西田が対面信号機の赤色表示を無視して、本件交差点に進入したとする点は否認し、篠原に過失がないとする点は、争う。

本件事故は、篠原の信号無視、前方不注視の過失により発生したものである。

2  原告の損害額

(一) 原告の主張

(1) 加藤損害分 七〇九万九〇〇五円

原告は、被害者加藤の損害填補を優先的に考え、加藤に対し、本件保険契約に基づき、対人賠償保険金として、治療費(二一三万九二〇三円)、休業損害(七二九万三二三二円)、交通費等雑費(六万六五七〇円)、合計九四九万九〇〇五円を支払った(最終支払日平成七年三月一六日)。

原告は、このうち二四〇万円については、西田車両、篠原車両の各自賠責保険から回収したので、原告の損害は、これを控除した前記金額となる。

(2) 訴外前田道路(以下「前田道路」という。)損害分 二三万六九〇〇円

原告は、平成六年九月二六日前田道路に対し、本件保険契約に基づき、対物賠償保険金(ガードパイプ破損修理代)として、右金額を支払った。

(3) 篠原損害分 一三〇万〇〇〇〇円

原告は、平成六年九月一三日篠原に対し、本件保険契約に基づき、車両保険金として、一三六万五〇〇〇円(臨時費用六万五〇〇〇円を含む。)を支払った。このうち、一三〇万円が損害となる。

(二) 被告の認否

(1) 加藤の損害について

本件事故による加藤の損害額が九四九万九〇〇五円であること、原告が加藤に対し、右金員を支払ったこと、原告が自賠責保険から二四〇万円を回収したことは、いずれも認め、その余は不知。

(2)、(3)については、いずれも不知。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の態様について

1  前記争いのない事実等に、甲一ないし、三、九、一〇、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件道路は、港区白金方面から品川区戸越方面に向かう首都高速二号線下の各片側四車線の道路(以下「甲道路」という。)と、目黒区大橋方面から品川区大崎方面に向かう山手通りが交差する、信号機により交通整理の行われている交差点である。

甲道路の対面信号機の表示は、一三〇秒サイクルであり、青色五二秒、黄色四秒、青色矢印一二秒、赤色六二秒(最後の三秒が全赤色)となっている。

甲道路の最高速度は、五〇キロメートル毎時に制限されている。

甲道路及び山手通りの路面は、いずれもアスファルトで舗装され、平坦であり、本件事故当時、乾燥していた。

甲道路の前方の見通しは、良好であるが、高速道路の橋脚があり、対向車線の見通しは、悪い。

(二) 西田車両は、訴外株式会社石坂善新堂(以下「石坂善新堂」という。)の所有する車両であったが、被告は、本件事故以前にも何度か石坂善新堂の代表者の娘の訴外石坂みかこ(以下「石坂」という。)から西田車両を借りて使用していた。

被告は、本件事故の一か月位前、知人を通じて加藤と知り合いになり、本件事故の数日前、事故当日の平成六年七月一二日に加藤と会って、駒沢公園等に行く約束をしていた。

被告は、本件事故前日の平成六年七月一一日午後八時過ぎころ、石坂が被告の当時の自宅まで西田車両を持ってきてくれたため、これを借り受け、西田車両を運転し、加藤と待合わせをしていた加藤の当時の勤務先に行き、加藤を西田車両の助手席に、その場に居合わせた東を後部座席に同乗させ、その後、駒沢公園に行った後、銀座で食事をする等して、本件事故当時は、六本木から大田区中央の当時の加藤の自宅に向かう途中であった。

被告は、本件事故当時、本件交差点の甲道路は、よく通っており、道路状況は、よく知っていた。

被告は、本件事故当時、西田車両を運転し、時速約五〇ないし七〇キロメートルで本件交差点の甲道路の第三車線を進行し、本件交差点に進入したところ、右手に篠原車両が迫ってくるのに気づき、危険を感じて咄嗟に左に転把したが、急制動等の措置をとる間もなく、本件事故に遭った。

被告は、本件交差点に進入する際の対面信号機の表示は、わからなかった。

本件事故により、西田車両は、車体左前部のほか、右側面部が損傷した。

(三) 篠原は、本件事故当時、群馬県高崎市内に居住しており、本件事故日の平成六年七月一二日豊島区高田の実家に戻るため、仮眠を取った後、午前一時ころ、篠原車両を運転し、同僚を同乗させて、高崎を出発し、午前三時ころ、同僚を品川区戸越で降ろし、一人で実家に向かう途中であった。

篠原は、本件交差点の甲道路は初めて通る道路であり、道順に不安を感じて方向指示の看板に従いながら、時速約三〇ないし四〇キロメートルで本件交差点の第四車線(右折レーン)に進入し、さらに減速しながら山手通りに向かい、右折を開始したところ、本件事故に遭い、反転して山手通りのガードレールと衝突した。

甲道路の篠原進行方向の前後には、第四車線を含めて、進行中の車両はいなかった。

篠原は、甲道路の対向直進車両には気づかず、対面信号機が赤色を表示しているのもわからなかった。

本件事故により、篠原車両は、左斜め前方から衝突を受け、フロントバンパー、フード、左フロントフェンダー等が損傷した。

篠原は、本件事故による賠償については、原告に一任しており、被害者となった加藤に対する対人賠償のほか、ガードパイプの対物賠償等も原告に支払ってもらったが、原告に対し、格別異議は述べなかった。

(四) 本件事故の目撃者の存在及び本件事故当時の被告の飲酒の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。また、本件交差点内における衝突場所を特定すべき証拠もない。

原告は、甲三の記載が具体的であること等を理由にして、篠原の供述が信用できると主張するもののようであるが、前認定のとおり、篠原は、本件交差点を初めて通行するのであり、対面信号機の表示を含めて、交差点内の状況を注意しているのが通常であると思われるにもかかわらず、本件交差点を右折するに当たり、対面信号機の表示だけは明確に記憶しているとしながら、対向車両の存在に全く気づいていない等やや不自然な供述が含まれている上、甲三の記載がことさら西田の供述に比較して信用できるとするに足りる情況的保証はないというべきであるから、これを採用することはできない。

2  右の事実をもとにして、本件事故の態様について検討するに、本件事故は、信号機により交通整理の行われている交差点における、右折車両と対向直進車両の事故であるが、双方の車両運転者の対面信号機の表示に関する主張が対立しているところ、前記のとおり、本件事故の目撃者はなく、篠原の供述が被告の供述に優越することを認めるに足りる的確な証拠はないが、被告は、前認定の事実によれば、本件交差点に進入するに当たり、制限速度を上回る速度で進行しているほか、前方注視を欠いており、この点に過失があることは否定できない(したがって、被告は、民法七〇九条に基づき、被害者に対し、本件事故により発生した損害を賠償すべき責任がある。)。他方、篠原としても、本件交差点が比較的大きな交差点であるにもかかわらず、同所を右折するに当たり、対向車両の存在に気づいておらず、この点に前方確認を怠った過失があるというべきである。

そして、西田、篠原双方の過失を対比すれば、その割合は、五〇対五〇とするのが相当である。

二  損害額及び原告支払の事実

1  加藤損害分 七〇九万九〇〇五円

当事者間に争いがない。

2  前田道路損害分 二三万六九〇〇円

前認定のところによれば、前田道路のガードレールの破損についても本件事故と相当因果関係のある損害であり、甲五の1、2、六により認められる。

3  篠原損害分 一三〇万〇〇〇〇円

甲七、八により認められる。

三  過失相殺等

原告は、前記二の各支払をしたことにより、商法六六二条に基づき、各被害者らの原告に対する損害賠償請求権を支払った額の限度において代位取得したものであるが、前記一2記載の割合に従い、被告篠原の過失を五〇パーセント減額すると、次のとおりとなる。

1  加藤損害分 三五四万九五〇二円

2  前田道路損害分 一一万八四五〇円

3  篠原損害分 六五万〇〇〇〇円

4  右合計額 四三一万七九五二円

第四結語

右によれば、原告の本件請求は、四三一万七九五二円及び、内金三五四万九五〇二円に対する、原告の加藤に対する最終支払日の翌日である平成七年三月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、内金七六万八四五〇円に対する、原告の前田道路に対する支払日の翌日(篠原については、支払日の後)である平成六年九月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例